謎の中国土産
その昔、世紀が変わろうという頃に父が中国へ旅行に行くことになりました。
祖父が未だ存命中だった気がしますので、私が学生の頃、1997年頃でしょうか。
父は上場企業勤めだったために景気が良かったのか、何度か海外旅行に出かけていました。姉が大学卒業して余裕が出来たのもあったんでしょうね。
そんな父が今度は中国に行くと言い出し、珍しく「土産は何が良いか」なんて訊かれたんです。すでにカメラ欲しい病を患っていた私は、迷わず「なんでもいから現地のカメラが欲しい」なんてお願いしたんです。可愛く無いですね。
その結果、買ってきてくれたのが写真のカメラ。型番もメーカーもわかりません。
何でも良いは言いすぎたなぁーと思ったのを覚えてます。
怪しい中国製フィルムとセットでしたが、フィルムはノーガードで税関通ってきたので、X線を真面に浴びて悲しい結果になってました。
中国製カメラ
そもそも、当時の中国は急に発展した感が強くて、イメージでは1970年代設計の工業製品を未だに作っている感覚でした。
今では隔世の感がありますけどね。
なので、中国産のカメラは二重像合致式で金属外装、革張りのヤシカエレクトロ35みたいなのを想像していたんです。
今でこそ情報があるので型番わかりますから「中江西鳳凰光学器械の「鳳凰205」が欲しい」みたいな具体的なお願いが出来るんですが、当時の中国は共産国臭が強くて、ソビエトではないものの謎のヴェールに包まれた感じでした。
中国製の高級品
そんな情報の少ない中でもそれなりに有名なものがありまして、例えばLeicaのデッドコピー機である「紅旗」なんかは有名ですよね?
ご存知かもしれませんが、紅旗ってのは毛沢東の妻だった江青が、文化大革命の時に4人組として権力の絶頂にあった頃に、国威発揚のため作らせたというLeicaM3のコピー機(複写機ではない)。
LeicaM3が登場したとき、その精密さは凄まじく日本のカメラメーカーに大きな衝撃を与えたそうです。
当時バルナック型Leicaのコピー機(複写ry)ばかりを製造していた日本のカメラメーカーも、その精巧さ故M3のコピー生産を断念。その後の主軸を一眼レフにシフトしていったのは有名な話ですよね。
バルナック型はコピー品が横行してもM3をマルっとコピーしようなんていう無謀な国はなかった…と思ったら、世界で唯一中華人民共和国がM3をコピーしました。とんだダークホースです。そして、そのコピーした機体が紅旗というわけなんです。政治的意図が絡むと無理が通ってしまう良い例ですね。
生産台数も少なくて、出てきても400万円するとかしないとかーいろんな意味で幻のカメラみたいです。
デザインはLeicaのM4と同M5を足して割ったような感じで、私の好みドストライクなんですけどね…いつか手に入れたいです…
出典:https://dc.watch.impress.co.jp/docs/news/1181217.html
そして廉価版
まあ、其処まで行くとお土産の域をはるかに超えてしまいますが、他には「上海」なんて名前のカメラがありまして、これはゾルキーやフェドと言ったソビエト製のバルナック型コピー機と同じようなもの。当時の雑誌には「まるで水墨画のような描写をする」なんて書いてましたが、ソビエト製のゾルキー2を使っていた経験から言えば単にコントラストと発色が良くないだけのモノコートレンズなだけなんですよね。
それでも殲撃7型みたいなパチモン感存在感は大層惹かれるものがありました。
あとはPENTAXがロングセラーのフィルム一眼レフK1000をそのまま技術移転したPENTALEXとかいうのがあったと当時の雑誌に載ってましたが、中国に行くとそんな感じの絶妙に古くてパチモン臭の溢れた商品がいっぱい売ってるんだと思ってワクワクしてました。
味も素っ気もないけど個性的
そんな妄想が膨らみすぎた頃、父が帰国しまして、待望の土産をくれました。
持った感じからしてとても軽くていかにもスカスカのコンパクトカメラ。
若干ガッカリ感はあったんですが、珍しいモノには変わりません。形はこんなですが描写はとても興味があります。
スペックは30㎜~50㎜のズームレンズと大型ファインダー、ストロボを備えたパンフォーカスのカメラ。オートフォーカスもついてませんし特に珍しい点はありません。ちょっと高級な「写るんです」です。
喜び勇んで、先ずは手持ちのフィルムを通してみたんですが、上手く噛まなくてフィルムが進みません。何度やっても底面(!)にあるフィルムカウンターが進まず、ダメそうな雰囲気。どうやら壊れていたみたいです。
土産物なんで返品・交換も叶いません。
まあ、中国土産の置物ってことになりました。家には置物だらけですけどね。
折角なんで観察して見ると、フィルムを押さえる金具とネジ以外はすべてプラスチック。当時から合理性の追求を第一義にしていたことが伺えます。操作するのはOFF/ON/ストロボONのメインスイッチと巻き戻しスイッチのみ。非常にシンプルです。
30㎜~50㎜のズームレンズなのにパンフォーカスってのはどうかと思いますが、当時の技術とコストを考えたらこれぐらいが落としどころなんでしょうね。
何よりASPHERICAL LENSって表記のズームレンズにビックリです。
さぞかしいい描写したんでしょうが、フィルムが装填出来ないんでは話になりません。
妄想を膨らませつつも、また機材棚の奥で眠りに就いてもらうことにします。
ああ、上海欲しくなってきたなぁ…
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